コウシエン

「コウシエン?」

 その聞きなれない言葉を聞いたのは、ようやく自分が自転車通学に慣れてきたころだった。自宅から青葉高校までの通学は坂道が多い。坂道を登る時には、自転車を押していくことも多くあった。それが少しずつ、自転車を止めることなく通学できるようになった頃だった。

「野球は分かる?」

「ヤキュウ?」

「野球というのは、スポーツなんだけど……その野球の高校生。俺らと同世代の奴らの大会なんだ。日本で一番野球が強い高校生を決める大会。それが甲子園」

 ヤキュウというのがどういうスポーツなのか分からないが、どうやら自分と同世代がスポーツで戦うというのは分かった。母国のコルビスクラフに思いを馳せた。コルビスクラフは高校生に人気のスポーツで、年に1回、全国各地で大会が行われる。

「コウシエンの1回戦をみようぜという話なんだ。これから天文部の部室でみんなが集まるんだけど、トルクスマコフもこれから来ないか?」

「――はい!」

 自分がはいと言った瞬間、止まっていた時間が駆け出したような感覚があった。まるで自転車で頂上まで登って、下り坂で風を感じているような。そんな感覚があった。